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ESR5000(MS5000)によるフロー測定システム



 バルブ切り替え方式をBruker社のESR5000(旧Magnettech社のMS5000)に適用したシステムです(上写真および図1)。ポンプ、バルブ、およびインジェクタは株式会社フロム、スポット光源は浜松ホトニクス株式会社のものを使用しました。フローシステム全体を制御するためのインターフェースBOXは、弊社で開発しました。最近ではポンプの性能が向上し、ポンプ前段にデガッサーを配置する必要がなくなりました。


インターフェースBOXなどを介したフローシステムの制御

 バルブ切り替え方式によるESR測定では、以下のような手順でフローシステムを動作させる必要があります。図2のタイミングチャートも参照してください。

(1) Sample Setup
 インジェクタへのサンプル注入後一定時間フローを維持した後、バルブを切り替えてフローを止め、サンプルを扁平セル内にセットします。

(2) Light Interval
 必要ならば、スポット光源のシャッタを開けて一定時間サンプルに光照射してラジカルを発生させます。

(3) Sweep Time
 ESRスペクトルを測定します。場合によっては(2)の光照射を行いながらの測定も考えられます。

(4) Washing Interval
 バルブを切り替えてフローを再開し系を洗浄します。洗浄効率を上げるためフロー速度を上げます。株式会社フロムのポンプはRS232Cを介して容易にきめ細かな制御ができます。

 ノートパソコンはUSBインターフェースBOXおよびRS232C(USB-RS232C変換器を用いる)を介して(1)-(4)に必要な制御信号を発することができます。

 弊社の開発したソフトウェア(図3)を用いると、サンプルの測定条件に応じて(1)-(4)のタイミングとフロー速度を自由に設定でき、自動化したフローインジェクション測定が可能となります。

サンプル測定例

 本システムを用いた測定例として、ローズベンガルによる光励起酸化反応を取り上げます。



 ローズベンガルはインドの女性がおしゃれで額につける赤い印に使われたりする色素で、光増感作用があります。すなわち、ローズベンガルは光エネルギーを吸収し、溶存酸素にそのエネルギーを渡して活性化します。そして、4R-TEMP(R=-H,-OH,=O)のような環状2級アミンが存在すると、3電子酸化されて安定なニトロキシドラジカルが生成するため、ESRで検知可能となります。実際、このような光増感酸化反応は生体表面(皮膚)で一般的に発生していることであり、ある物質をEq.1の系に共存させた場合にニトロキシラジカルの発生が抑制されれば、その物質にこの光増感酸化反応に対する抑制作用があると評価され、有用な物質である可能性が出てきます。

 図4左の表のような組成のサンプル(Sample=PBSのとき)をインジェクトし(サンプルループは150ul)、図3のスケジュールでシステムを稼働させると、図4右のニトロキシドラジカルのスペクトルが安定的に得られます。
 この条件下で、光照射時間を1秒毎に10秒間まで変化させて測定したところ、Peak Heightは照射時間に比例することがわかり、5秒も照射すれば各種物質の抑制効果を比較するのに十分なPeak Heightが得られることがわかっています。

光照射システムの肝

 上記のように短時間の光照射で再現性良くラジカルが生成できるのは、浜松ホトニクス株式会社の安定で強力なスポット光源のおかげです。使用したスポット光源(LIGHTNINGCURE LC8, L9588)では放射波長により光源を選択でき、ここでは最も広帯域なL9588-06Aを用いました。カタログスペックでは放射波長は240 ~ 550 nm となっていますが実際にはずっと広帯域に強力に発光しており、フィルタで赤外線を遮断しなければサンプルが過熱されるほどです。即ち、この光源を用いれば、UVおよび可視光のすべての領域における光照射実験に対応できるということです。

 一方、必要のない波長の光をサンプルに照射すると期待と異なる反応が起きてしまう可能性があるため、紛れのない光照射実験を行うには照射光波長範囲を制限することが望ましいのです。そのため L9588では専用ケース内に50mmΦの円板型フィルタをセットできます。厚さとして5mmまで可能なため薄いフィルタなら複数枚重ねて挿入することが可能です。
 図5のように短波長カットフィルタと長波長カットフィルタを組み合わせてバンドパスフィルタ(BPF)を形成し、必要な波長だけをサンプルに照射します。このような目的(透過域において100%近く透過し、境界における透過率の立ち上がりが急峻なこと)に最適なフィルタを供給するのが朝日分光株式会社です。豊富なカットオフ波長をもつフィルタがあり、50mmΦに加工してくれます。
 初期実験の頃、不必要にでかくバズーカ砲のような光源に使用されていたフィルタをL9588のフィルタとしてセットすると一瞬にして割れました。それほどL9588の光源は強いので耐熱性の低いフィルタは使用できません。その点朝日分光のフィルタはフィルタリングの性能に優れているだけでなく耐熱性にも優れており、一度も通常使用条件で割れたことはありません。
 さて、ローズベンガルの系で利用するフィルタの選択は、その光吸収スペクトルを調べることから始めます。図6から500 ~ 580 nmのBPFを用いればよいと考えられます。実際には、>490 nmの短波長カットフィルタとコールドフィルタ(<730 nmの長波長カットフィルタ)を組み合わせて使用しました。低エネルギー光である>580 nmの長波長光の遮断は余計な反応の抑制という意味ではあまり重要ではありません。しかし、サンプルの過熱を防ぐためにはコールドフィルタは必須です。
 朝日分光製の長波長カットフィルタでは短波長の紫外線もカットしてしまうため、短波長のUV照射には向きません。この場合は浜松ホトニクスが供給する紫外線透過フィルタを使用します。このフィルタでは400 nm以上をカットするため、サンプルの過熱も起こりません。